クロエの長い髪がまだ左腕に絡みついているような気がして、そんなことある筈がないと、感触を確かめるべく左手で拳を作る。

当時の俺の左腕---左手の中には確かに、絡みついていたのだろう。

過去に捕らわれていたこの手の中に、クロエの髪が絡みついていなければ、俺は何者からも捕らわれているわけがないのだ。

トラウマは、いつしか左手の中だけではなく、俺の全身にも及ぼうとしていた。


「ならハジメ。帽子か何かを持っていないか。ヘアバンドでもなんでもいい。被り物が欲しい。お前が俺の力になってくれるのは、それだけで良い」

「………ああ、良かよ。…ばってん、ヌシャは俺ばもう少し信じても良かよ」

「駄目だ。腕のことになるとどうしても誰も信頼出来ない。お前も俺の腕は信じないでくれ。俺とは違うものだと思って区別して扱って、信じないでくれ」

「そんなんヌシャとダブルス組んだ時からしとるよ。……………。…アウン、俺はヌシャが心配ばい。"ヌシャとは違うもんがヌシャの首ば締めようとしとる"。それが心配ばい。だけん、もうちょっと、俺の昇給ば待っとってね。そしたら、ヌシャん力になれるけん」

「…?おい、ハジメ」



言葉の真意を掴みあぐねる俺に背を向けると、ハジメは降りてきた階段を上がって行く。

俺はその背に、頼もしさよりも不安を感じていた。

いや、諦念か?

当時の気持ちがよく思い出せない。

それでも、確かに思っていたことは、俺の腕とハジメのことだ。


明確に思い出せないのは、

"お前には何も出来ない"

諦念だったのか、

"お前には何もして欲しくない"

願いだったのか、だった。


その後、しばらく待っているとハジメがヘアバンドを持って来て、俺はそれをしばらく借りることとなった。

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