なのに、いざこうしてその光景を見てみると、望んでいた筈の光景なのに、さっきからずっと心の中を覆い尽くす不安を打ち消せない自分自身がまだいて、それもまた衝撃的だった。


当時の自分がその時、何をしようとしたのか分からない。

クロエを取られまいとしていたのか。

それとも、クロエを送り出そうとしていたのか。

クロエを取られまいとしていた癖に、送り出そうとしていた自分が、どんな胸中でいたのか、過ぎた今ではもう、忘れられつつあることだ。


「く、クロエ…」


俺はその二人に一歩踏み出していた。

石柱から踏み出して、二人の前に姿を現す。

俺の存在に気づいたクロエは、目を輝かせて母親の服の裾を引っ張る。

きっと俺を紹介しようとしているに違いない。

なんとでも言うと良い。

婚約者でも、恋人でも、なんなら今からでも旦那なんて呼んだって構わない。

どうせ俺の将来はお前にやるつもりでいるのだから。お前の好きにしていいんだよ、クロエ。


でも、その話は、後にしてくれ。

その話は、



「クロエ、母親のとこに、戻れよ」



母親と、もう一度二人きりになれる場所で、やってくれ。



これが、高等部で次にぶち当たった壁である。

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