「………クロエ」


夜の道の向こうから、街頭の下まで歩いてきたクロエの姿が、ようやく見える。

まったく変わっていない。いつも通りのクロエだった。

当たり前だ。たったの十日かそこらでコロッと人が変わってたまるか。

それでも、俺にとっては半年、いや、一年に感じられるほどに長かったんだ。


クロエはゆったりと俺の前まで歩いてきて、胴体にそっと抱きついた。

小さいクロエは俺の胸元に顔を埋めて、背中に腕を回してゆるゆる撫でる。

俺がそう出来ない奴だと知っているんだ、クロエは。


「どうしたの、アウン?ランニング中に迷っちゃったの?」


子供を寝かし付ける時の母親みたいな声音で、クロエは問う。

その問いに、俺は。


「…ああ、迷ったんだ。…迷ったんだよ、クロエ」


お前の為になることと、俺の為になることが、同じなわけがないと思っていたんだ。

だから、お前を母親のところに帰そうとした。でも、俺自身はそれがどうしても嫌で、だけどお前の為なんだって、自分に言い聞かせて、それでも、迷ってたんだよ。

自分の言ったことを後悔して、お前との電話の最中に、何度も一番言いたい言葉を言ってしまおうか、迷ったんだよ。

ここに来るまでの道中だって、凪雲が変な地図書くから、迷ったんだよ、俺。



「……クロエ」

「なあに?」

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