君色に染まれ
衝動
「祐希奈 先輩の坂巻って人 どうよ?」
美月は唐突に質問した。

祐希奈は一瞬動揺したが、すかさず答えた。

どうよ?って リーダーって感じの先輩スタッフやんね。

美月は少しにやついた。

「そうじゃなくて、男として?」

祐希奈は思わず声を出した。

ええ?そういうことかいね。そんなん思いもせんかったけん 美月はどうなんよ?
美月はすかさず独自の分析を始めた。

「坂巻真吾 23歳 ホールリーダー 仕事は真面目 周囲からの信頼も厚い でも男としては 少し おっとりでのろまな感じがするな。男ならもっと実直に引っ張ってほしいねえ。」

祐希奈は美月に相槌せず 話を反らした。
給料日はいつだろね? 東空の花柄のワンピースゲットしたいね。

美月は少しきょとんとしたが、笑顔でたしなめた。

こうして祐希奈の夏休みは始まった。

まだ恋という苦しい体験をするとは知らずに。少女はまだ恋という衝動を知らないでいた。


2日目の指導が始まった。

坂巻はすでに新人6名の名前も把握し、声を張り上げ皆を指導した。

「はい 町田茜さん!注文が違ってました。こういう場合はどうしますか?」

「はい。まず謝って正しい注文を聞き直します。」

坂巻は頷きながら続けた。

「こういう場合はまず大きくお辞儀をして謝ることが大事です。接客は人間同士。だからボディアクションは相手の怒りを和らげます。」

祐希奈はしっかりメモを取りながら、坂巻の姿を見つめた。
次の瞬間 目が合った。

え?なに この感覚?祐希奈は大きく動揺した。坂巻の眼差しに吸い込まれそうになった。

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