恋する淑女は、会議室で夢を見る

深呼吸をして気持ちを落ち着かせ
化粧を直して桐谷専務のところに戻ると
ムッとした専務が、チョコレートが一粒のったお皿を真優に差し出した。

「君はやっぱり子供だな
 苦いっていうのは こういうのを言うんだよ」

「・・・」

見るからに苦そうなチョコレートを手に取って
口の中で溶かすと…

「… うッ!」

予想通り、唸るほどに苦かった。


クスッ と、うれしそうに桐谷専務が笑う。






「専務」

「ん?」

「私、自分に呆れちゃいました」


「…そうか」



「大人への階段を上っていこうと思います」

「?
 なんだその昭和の青春ドラマのようなセリフは」


「だから、
 まずはじめに
 明日から珈琲をブラックにしようと思います」


「・・・」


桐谷専務は、呆れたように私を見下ろしている。


クスッ


  クスクス


真優の笑いにつられたように
桐谷専務も笑い出した。

クスッ


クックック


「どんな階段だ」

あっはっは





―― ブラック珈琲の苦さに慣れた頃には


…専務
私ね、

失恋を乗り越えて
 もう少し強くなってるはずですから。

それまで箱入り秘書で、がんばりますね。


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