恋する淑女は、会議室で夢を見る
 

*...*...*...*...*



会場へと向かう車の中
「で、誰の披露宴なんだっけ?」
心配して付いてきてくれたユキに、真優はそう聞いてみた。

「近江家のご子息と 滝田家のご令嬢の披露宴です」
ユキは招待状を広げて見せたが

「ふーん」

近江家と滝田家と言われたところで、真優はそれがどんな家なのかわからなかった。

どんな人たちが招待されていて
自分が座る席の隣にどんな人が来るのかも、皆目見当がつかない。


「どなたもご存じない中で
 心細いですね…お嬢さま」

自分のことのように不安気なユキに
真優は満面の笑みで答えた。

「大丈夫!
 私はほら、営業部にいるでしょ
 初対面の人と、当たり障りのない会話をすることは慣れてるの」

胸を張って、パーンと帯を叩いてみせた。

「お嬢さま 素敵!」

クスクス

「ただ ちょっと残念だなぁ…」

「?」

「これじゃ、食べられない」

真優がため息をついて、帯を撫でた。

薄い水色の華やかな振袖を着たのはいいが
帯でギュウギュウに締められている。
さぞかし美味しいであろう食事も
これではあまり食べられない。

クスクス



・・・




「じゃあお嬢さま がんばってくださいねー
 何かあったらメールをしてください!
 会場まですぐに飛んでいきますから」


「はーい」


車とユキを地下の駐車場に残し、真優は会場へと向かったが
気楽な気分もここまでだった…。
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