イジワル婚約者と花嫁契約
第三条『名前で呼び合うこと』
六月に入り、テレビでは私が住む地域も梅雨入りしたと言っていた。
予報通り、朝から雨でジメジメとしつこい空気が纏わりついて気持ち悪い。
そんなある日の昼休み。それは突然なんの前触れもなく送られてきた。

【灯里って呼ぶから】

……なにこれ。

いつものように千和さんと食堂で昼食を食べながら、メールをチェックしている時だった。
佐々木さんから思わず目が点状態になってしまうメールが送られてきたのは。

「灯里ちゃん?どうかしたの?」

両手でスマホを握りしめたまま固まっていた私を目の前に、千和さんは不思議そうに声を掛けてきた。

「あっ、いいえ!別になんでもありません」

平然を装い、すぐに【呼ばないで下さい】と素気ないメールを返した。

佐々木さんとお見合いをしてから半月が過ぎた。
だけど実際に会ったのはお見合いの日と、この前家に訪ねてきた日だけ。
佐々木さんは夜勤もあるし、急患が入れば呼び出されることもある。それに比べて私は日勤。
なかなか予定が合う時間がなく、いまだにメールのやり取りを毎日しているだけの関係だった。
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