身勝手な死神
 






暗く深い大きな眼窩。そこから脳漿が零れおちて仕舞わないようにと頭蓋に巻かれた白い包帯。それと同等までに色のない真っ白な髪と、肌。爪だけが黒く、その青年の不安定さを一層引き立てている。

何が見えているんだろう。

透き通った肌に触れる。動かない。
ただ、電子音が時折鳴り、人工呼吸器で薄い胸が僅かに上下するだけである。



あの時、血と脳漿に塗れ、自我を失いかけながらも白秋の詩を諳んじてみせた彼は、まだ意識がない。当然の結果である。脳を破壊したのだから。普通の喰種では再生が追いつかない程に傷付けた。それでも今は頭部の再生こそ遅れているものの、それ以外の損傷させた部分は傷一つ無くなっている。頭部を貫いたからか、自己防衛本能のせいなのかは分からないが、彼は記憶を無くしたそうだ。それをきっかけにこれから彼はヒトとして扱われ、捜査官として生きていくことになった。本来なら特等のクインケ「ムカデ」として使用するために金木研という半喰種の存在はは抹消される筈だったが、総議長に直接陳情し、このように命を繋ぎ止められる状態になった。




これで彼は記憶までもが真っ白になってしまったのだ。







目が覚めたら、何を話そうか。本でも与えたら、彼は喜ぶだろうか。
また、詩を謳ってくれるかな。







全ての元凶である死神は、無責任にもそんなことを考え、静かに、微笑を浮かべるのであった。






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