不順な恋の始め方

坂口 譲 side




* * *



「今日の夕ご飯、何がええ?」



じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、レタス、ほうれん草。

買い物かごを乗せたカートを押しながら、それらを順に見ていく俺と森下さんは夕ご飯の買い出しにスーパーへと来ていた。


俺のひとことが聞こえていたのか、聞こえていなかったのか。それは分からないけれど、隣の森下さんは何やらつまらなそうな顔をしている


「どうしたん? お買い物嫌やった?」

「え!? そ、そんな事は…!」

「ほな、なんでそんな顔してんのー」


ご機嫌斜めなん?お嬢さん

と、からかうようにして森下さんの顔を覗き込む。すると彼女は顔をリンゴのように赤くして俯かせた。そしてゆっくりと、小さく口を開く


「違うんです。そういう訳じゃなくて、私が言いたかったなぁって思って……」

「ん? 何を?」


「その、夕ご飯何がいい? とか……そういう彼女らしい台詞を……

だって、普通は女の子が言うもんですよね。でも、私が料理できないから……」


もごもご、もごもご、と口を動かして呟く彼女はまるで拗ねた子供の様。

でも、そんな姿でさえ俺には愛らしく感じる。可愛ええなぁ、と心底思ってしまった。

< 74 / 195 >

この作品をシェア

pagetop