天才少女は嘘をつく。






「えー……今年度から新1年生が本校の生徒になりましたね。2年生以上の皆さんは1年生のお手本になれるように心がけて……」

口に手を当てて小さな欠伸を1つした。
退屈過ぎる校長の話に講堂にいる生徒の多くが睡魔に負けてしまっていた。首が垂れて揺れている生徒も居れば、隣の席の子にもたれかかって寝ている子もいる。
 つまらない。せっかくお嬢様学校なのに、だあれもお嬢様みたいじゃないんだから。
 桜川学園は全国でも有名な幼稚園からあるお嬢様学校だ。いわゆる女子校の御三家トップに君臨し、入れば道は開けると言われるぐらい進学率が高い。

そして、中等部からはクラス分けが少し変わっていた。

「……さて、皆さんお待ちかねの『クラス分け発表』です」

 校長の声に全員の目がぱっちりと開いた。ざわざわと話し声が聞こえてくるのは1年生だけだった。
2年生以上の高校生含む生徒は特に面白いことでもないと言いたげな顔で校長を凝視していた。

 わたしは上の階で立つ生徒を発見した。
特徴的な長いストレートの髪は彼女であることを象徴している。手には本を持ち、読書に耽っていた。ステージにライトを当てる時に使う道具に寄りかかっていて、全員参加必須の始業式に一応、参加しているのが一目で分かった。

 わたしたちの通う桜川学園中等部のクラス分けは3つだ。
 普通クラス、芸能クラス、体育クラス。そのどれもが全く違った授業を受け、制服も少し異なっている。
 そして午前が終わると、各クラスの代表を集めた授業が行われる。



 特別クラス。


それがそのクラスの名前だった。



「倉田美亜、桜川流奈、豊島由衣、東真子、樋本麻里。以上5名____________特別クラス」

 わたしたちは2年生の最後に呼ばれた自分たちの名前を、さも平然と聞き流しているように見えただろう。しかし、内心では聞き間違いではないかと焦っていた。
 5名?4名の言い間違えじゃないの?樋本麻里って誰のこと?
 そんなわたしの問いかけに答えるかのように、校長が話を続けた。

「では転校生の紹介にうつります。樋本麻里さん、壇上まで来てください」

 真ん中の方の席で一人の少女が立ち上がった。講堂の席は3つに区切られていて、右側が芸能クラス、真ん中が普通クラス、左側が体育クラスとなっていたはず。
 つまり、転校生は普通クラスということ。

 わたしは目を凝らした。遠くなのであまりよく見えないが、顔の素材は逸材といえる。そこら辺の芸能クラス生より美人だ。目頭がキツそうな印象を受けるが、美少女にはよくあること。

 わたしの前を通りかかった彼女に、周りに気づかれないようにウィンクをしてみた。不思議そうに首をこてっと傾げる。反応が初々しい。

「初めまして。シンガポールから来ました、樋本麻里です」

 壇上に上がって自己紹介すると、生徒たちが大きな拍手を送った。
 転校生が来ることなんて滅多にない。それはこの学園の学費が高いことと、転入する時に莫大な費用をかけなければ入れないからだ。
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