【超短編30】恋愛トマト談義
恋愛トマト談義
(なるほど、トマトだ)
と僕は思った。


赤い色、丸い形、緑のヘタ。
土の香り、独特の臭み。



どれを取っても間違いない。


僕の目の前にあるのは
トマト以外の何者でもない。


「なるほど、トマトだ」


今度は、口に出して
僕は確認した。



「そうでしょう。

だから、さっきから
そう言ってるじゃないですか」



問題は



その、目の前にあるものが
話しかけてきている

ということだ。



「どうして疑うのかな。
あなたトマト見るの、初めて?」

「いや、何度もあるよ」


僕は
流暢に話すトマトを前に

やっと返事が出来るくらい
落ち着きを取り戻してきた。


「そう? 何度も? そうか」


目の前の
トマトは微動だにしない。


でも確実に言葉を話し
今は
考え込んでいるようにも見える。




「でも
しゃべるトマトは初めてだ」


そしてようやく僕は
自分の意見を言うことも出来た。



その返答には
さすがのトマトも納得したらしく


「そうか。

しゃべるトマトを食べるのは
初めてか」


と頷いた、ように見えた。




ちょっと待て。


僕はこれから
こいつを食べるのか。


(それはさすがに難しいだろ)



僕の表情から察したのか
トマトは優しい声で


「大丈夫だよ。痛くないんだ。
むしろ気持ちいいくらいだ」
と促した。



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