『私』だけを見て欲しい
Act.4 少しだけジブン
電車を乗り継いで1時間弱。8時半前に会社に到着。

(…退社してから12時間以上経ってないよ。労働基準としてどうなのよ…これ…)

そんな疑問を抱きながら、社服に着替える。
この会社の良い所は、制服があることと、クリーニングは自分がしなくてもいいってこと。

その二つのお陰で、私は経済的に助かってる。

(そうは言っても、通勤用の服いるけどね…)

女性が多い職場。
しかもアパレル商品も扱うようなトコだから、いい物かどうか、直ぐに見分けができてしまう。

(でも、いいの!多量生産品で…)

着まわしが出来て安くてラク。
何よりそれが1番!

肩より少し長めのストレートボブをシュシュで結ぶ。
身だしなみを整えて雑貨フロアへ行く。
6階まで階段を使って上る。足腰が丈夫になったのも、この会社のおかげ。


フロアに一番乗りするのは、いつも私。
だから、電気をつけて換気扇を回す役目もしてる。
…でも、今日は珍しく違った。


「…あっ、山崎マネージャー…」

昨日作ったディスプレイの前に立ってる。
この人がこんな早くから仕事場にいるのなんて、初めて見るかも。


「…おはようございます」

売り場の手前で立ち止まって挨拶。
山崎マネージャーは私の声に気づいて振り返った。


「…おはよう…早いね」
「あ…はぁ…」

それ、こっちのセリフですけど⁉︎

「マネージャーも今朝は早く来られたんですね…」

珍しい…とは、言わずにいるか。
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