砂漠の賢者 The Best BondS-3
第一章『青空がやけに目にしみて』
    1.



「ぜったい殺すっ!! ぜったいぜったい、ぶっ殺す!!」


北のエンダル大陸の船着場ユーノから船に乗ること二週間、彼らは南西に位置するシリアープ大陸の港町、カダルに居た。

活気溢れる港町の往来で怒髪天を突く勢いで拳を握り締め、大絶叫する少女を道行く人が振り返る。


「エナ! 落ち着けよ! 叫んでもしゃあねェだろ!」


それを宥めようと怒鳴る青年の声も少女のそれと同じくらい大きなもので。


「だって……だってっ!!」


自分の内にある、激情を持て余す彼女は食ってかかるように言い募ろうとする。


「だぁら、とっ捕まえて連れ戻しゃあいいだろうが!!うるせェよ、お前!!」


少女はその言葉に淡い黄色の髪を俄かに逆立て、蒼と翠という色違いの瞳を青年に向けた。


「お前って言うなぁ!!単純バカくせにぃっ!」


ただでさえこれでもかと燃え盛る炎のような彼女に対して、緑に見紛う淡い灰色の瞳をした青年の言葉は充分油の役割を果たしたといえる。……有難くないことに。


彼女は更に激昂し、このまま言い争いに突入するかと思われたが、いつでもマイペースを崩さない絶世の美青年がそれを阻止した。


この男、紅という珍しい色を髪と瞳に宿している。


「まぁ、怒鳴り散らしたい気持ちはわかるけど、今回はゼルくんの意見の方が建設的かなって思うよ、ジストさんは」


その瞬間、少女の怒りの矛先がジストに照準を合わすが、こういった場においてジストは一枚も二枚も上手だった。


「無駄にしていい時間なんて無いデショ?」


この一言でエナはグッと押し黙る。


彼女自身、無駄にしていい時間が無いことも、怒鳴り散らしたところで何も解決しないこともわかっていたから。




それでも、怒鳴らずにはいられなかった。


怒らずにはいられなかったのだ。


不甲斐ない、自分自身に対して。




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