【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく


結に抱きかかえられて外に出る。

ひゅんひゅんと身軽に跳ぶので、夜風が冷たかった。


「あっ結!露李ちゃん見つかったんだね!」


文月がそこかしこに浅葱色の光を飛ばしながら声をかける。

すっと結界を張ってからこちらにやって来た。


「敵の式神たちが押し寄せてきてるよ。下は疾風たちが戦ってる。──それで、露李ちゃん」


急に、露李の名を呼ぶ声がどす黒くなった。


「帰ったらお説教だから」


「は、はいっ」


慌てて答えると、文月は露李の額にコツンと自分のそれをぶつける。


「本当、心配させないで──」


無事で良かった。

そう告げると、また攻撃体勢に移った。

あまりの顔の近さにぼんっと赤くなった露李。

それを見た結は面白くなさそうな顔をする。

と、そこへ、理津が走って来た。

結と露李のいる屋根へ飛び乗る。


「結!露李!」


「どうした理津」


「撤退だ!下の式はあらかた片付けた、行くぞ!」


理津の言葉にふと結が黙りこんだ。

少し経って口を開く。


「それはおかしい。俺たちが来てるってなったらあいつらが攻撃して来るんじゃねーか?」


理津も怪訝な顔をする。


「結先輩。水無月さんは」


露李がきゅっと結の服を握って尋ねた。


「あいつか。あいつなら俺らの誘導をしてくれた。…分かってるよ、あいつも一緒に帰るんだろ?」


はい、と頷く。


「当たり前だろうが。あいつの身体はあっちにあんだからよ。…にしても、変だな」


「ああ。結、本当に誰も見てねぇのか?」


「いや、見てねーよ…仕方ねーな、帰るか」


まぁ戦わないに越したことはねーけど、となんとか自分の中で納得したようだ。


露李は眼下にある、自分が二週間以上を過ごした家屋を見つめた。


「美喜…」


下から迫って来る二つの影。


美喜と水無月だ。


「何でこいつがいんだ?」


驚いた声をあげた結には目もくれず、美喜は露李の手をとった。


「露李、大丈夫なの!?助けに行けなくてごめん、あたしっ」


「大丈夫」


露李の落ち着いた声に、美喜は言葉を切る。


「有明様に禁止されてたんでしょ?」


「…うん」


美喜は自嘲気味に笑った。


「─式神って嫌ね。ねえ、露李」


「何?」


少し寂しそうな美喜の笑みに、なぜか露李の心がズキリと痛む。


「あたし、あんたに会って初めて人間になりたいって思ったわ」


「どうしたの、そんな…」


別れの台詞みたいなこと言わないで。

泣きそうな顔の露李に美喜は美しく微笑む。


「早く行きなさい!この式たちはあたしがどうにかするから──帰るのよ!二度と戻って来ちゃダメよ!」


そう言って背を向けた。


「そんなのっ、この数は─」


結を除いた四人の守護者たちが相手してもまだまだいるのだ。

美喜一人では厳しいだろう。


「何言ってるの。あたしはあの人の魂の半分を持ってるのよ?ナメられちゃ困るわ」


「露李、行こう。この子なら大丈夫だよ」


水無月が露李の目を見る。


「お前ら、今のうちだ!帰るぞー!!」


結が叫んだ。


疾風たちが結界を張ってから、結と露李の元へ駆け上がってくる。


月が、青白く辺りを照らしていた。



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