ウェディングロマンス~誓いのキスはふたりきりで~
私だけに出来ること
中谷加奈子(なかたにかなこ)。本店プライベートバンキング室FPチーフ。


手元の出席者リストではこれしかわからない。
社食から戻ってしばらく悶々とした後、私はついに行員データベースでプロフィールを調べてしまった。


この証明写真はいつ撮ったものだろう。


凛とした意志の強そうな瞳。
真っ直ぐ正面を向く小さな写真ではちょっと印象が違うけど、私は彼女に見覚えがあった。


パッと見、勝気な印象を与える、サラサラロングストレートの美人。
一度だけ見たことがある響さんの彼女。
ものすごく大人っぽくて、響さんにお似合いだと思ったあの人だ。


お昼前に送った座談会のメールには、まだ一通の返信はない。


それもまあ仕方ない。なんせ相手は清水さんも認めた選りすぐりの精鋭メンバー。
銀行のオフィスアワーのこんな時間に、悠長に社内報のアポイントを気にしてるほど暇じゃないはず。


見ておく、って言ってくれたけど、響さんからも返信が来るのは早くて今日の業後だろう。


ぼんやりしながらデスクで頬杖をついて、私はチラッと壁の時計を見上げた。


後三十分もしたら就業時間が終わる。


せっかくちょっと仕事を任せてもらえるようになったタイミングだから、出来ればやる気を見せておきたい。
でも手元に急ぎの仕事もないし、何より今日の午後の私は、誰が見ても完全に集中力を欠いていた。


無駄に残業しても能率悪いだけ。
そう、残業してアピール出来るのは、仕事を捌き切れない自分の無能さでしかない。


そう諦めて、今日は早めに帰路についた。
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