体から堕ちる恋――それは、愛か否か、
第5章 綾香の試み
美弥と優が静岡県下田市の別荘についた時、綾香は実家に向かう新幹線の中だった。

岡山駅にはいつものように幼馴染の拓未(たくみ)が迎えにきてくれてた。
BMWの紺のスポーツカー。岡山の同窓生で外車に乗っているのは、両親が不動産会社をやっているプチぼんの拓未だけだ。つまり親の金。拓未は東京の大学を卒業した後、実家に戻って不動産会社を手伝っている。

サーフィン会社のロゴが入ったTシャツにハーフパンツにビルケンシュトックトックの白いサンダルという恰好は、一見サーファーという雰囲気だ。事実、地元のビーチで焼いた肌はサーファー色だが、拓未はサーフィンはしない。

というよりスポーツ自体あまり好きではないことを、小・中・高まで同じ学校だった綾香は知っている。
鈍いわけではなくて、スポーツそのものに興味がないそうだ。

「お帰り」

童顔なのにふとした拍子に色気を放つ奥二重の目を細め、拓未は綾香の姿を見つけると顔をほころばせた。
笑った、ではなく、ほころぶという表現が拓未の笑顔にはぴったりだ。
その屈託のない笑顔は拓未の素直さだとか、優しさだとか、そうした性格をよく表している。
< 113 / 324 >

この作品をシェア

pagetop