大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜

特別個室にて

僕はゆっくり目を開けた。白い天井が見える。
ピッピッと規則的な小さなモニターの音が聞こえる。
ゆっくりと頭を回す。ここは?…見覚えがある。ナナコが入院する時はこの部屋だった。と考える。昔昔はあやめの祖母が長く入院していて、入退院を繰り返すナナコのためにも使われていた。特別室だ。2階にあるICUがある部屋の奥にあり、救急外来の真上にあって、救急外来の病室に含まれている。ベッドから美しい中庭がよく見えるよう窓が大きく取られていて、桜子さんは当直の時にこの部屋を使う。
僕の手を握っってるのは、…横をゆっくり見ると、目を閉じたあやめの顔があった。
ジッと顔を見ると涙の跡がついている。心配させたかな。点滴の管が入っている反対側の手でゆっくりあやめの頭を撫でる。
あやめがパッと目を開ける。僕は、口のなかでシーッと声をかけたら。あやめはそのままの姿勢で、
「心配させないで」と小声で言う。目が赤い。僕は
「ごめん」と言って、あやめの頭に顔を寄せて、あやめの匂いを吸い込む。あやめは
「なにやってるの」と顔を赤くするが、おとなしくされるままになっている。
「あやめの匂い、落ち着く。」と笑ったら、
「馬鹿。」とニッコリした。僕は、
「いろいろ、上手く言えなくてゴメン。でも、あやめが、医者になるのは、賛成だし、応援する。あの、家庭教師は気に入らないけど、我慢する。」と早口で言った。あやめは笑って、
「私も、ゴメン。チビ虎の新しい友達にヤキモチ妬いてた。今まで、長く離れたことなかったから、なんだか、チビ虎が、遠くに行ったみたいで心配だった。」と真面目な顔をした。僕は
「あやめが小学校に入った時にした約束覚えてる?」と聞く。あやめはクスッと笑って、
「チビ虎とは、いろいろ約束してるけど?どれのこと?」と聞き返す。
「…ずっと、一緒にいるってヤツ。」僕はあやめの黒い瞳をジッと見る。あやめは
「覚えてるけど…」と言ったので、ホッとした僕は、あやめの頬に唇をつけ、
「忘れないで」と小声で囁いた。あやめも僕の頬に唇をつけ、
「忘れません」と囁く。僕は急に恥ずかしくなって、
「少し、寝る」と言って目を閉じた。
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