大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜

リハビリの日々

やっと、車椅子に乗れる許可が出た。
整形外科の病棟に移る。リュウは大部屋でいいんじゃないかって、言っていたが、毎日院長と副院長2人が入れ替わり立ち代わりやって来る来る大部屋っていうのも、他の患者さんに迷惑です。と山下先生に反対されて、個室に入れられた。シャワーやトイレが部屋に付いているので他の人を気にせず、ゆっくり使えるので、ありがたい。僕の左足には20センチ以上の手術の痕と、皮膚が骨によって破れた傷がある。はじめはかなり腫れ上がって、自分の足じゃないみたいだったけれど、今は、結構、動かせるようになってきた。朝と夕方にリハビリ室で本格的にリハビリが行われる。主に怪我をしていない部分が衰えないように動かすことだ。リハビリ室は病院のコの字型に隣に作られている隣の建物で1階で繋がっている。外来の患者さんも、リハビリだけに通う人もいるかなり大きなスペースだ。
僕の担当は三ツ矢さんっていう女性で30歳位の女の子人だ。ボーイッシュな感じで、ハキハキしていて、結構、スパルタだ。筋力トレーニングの時は鬼だと思う時がある。サッカー続けるんでしょう、と笑顔で負荷をかけてくる。リュウ先生に直接頼まれてると、嬉しそうにしている。やっぱり、あの男は嫌な奴だと心から思った。アイツは時折リハビリ室に僕の様子を見にくるが、やってきたのがすぐに分かる。女性達が、ざわめくからだ。もう55歳なんだから、いい加減、容姿が衰えて欲しいもんだ。若い奴らにその人気を分けてやってくれ。三ツ矢さんは張り切って、僕に厳しく指導する。勘弁して欲しい。僕は、ヘロヘロになってリハビリ室を後にするのだ。リュウは
「チビ虎、順調そうじゃないか。」と満足げに、僕の隣を歩く。なんで、部屋まで付いてくんだよ。と思ったら、案の定部屋にナナコの姿があった。リュウのヤツは「ただいまナナコ」といって、頬にキスをする。ここは、家じゃあないんですけど、と僕は不機嫌になる。ナナコは「フルーツタルト焼いたの。」と僕に笑いかけ、「足は痛くない?」と心配そうに聞いてくる。僕は
「痛くない。」と短く答え、「タルト食べる」と催促した。リュウは
「ほとんどベットの上にいるのにおやつなんて食べちゃって、体が重くなっちゃうんじゃないの?」とニヤニヤする。僕が顔をしかめると、嬉しそうに、
「ナナコ、俺にはふた切れちょうだい。これから、まだまだ、働くからさ、重くならないと思う。」と言う。ナナコのフルーツタルトは僕の好物なのを知っているのだ。ナナコがリュウに
「オトナゲないことは言わないでください。虎太郎で遊ばないように。」と言ったので、
「はーい」としぶしぶリュウはソファーに座った。
ベットに座って、僕は大きく切り取られたフルーツタルトを頬張る。持ってきた紅茶をカップに注ぎ、ナナコは僕と、リュウの前に置いて、自分の分もリュウの隣においた。
家族3人でお茶。ここしばらくなかったシチュエーションだ。リュウが
「昴君の宿題やってる?」と聞いてくる。僕は鼻を鳴らす。
「ふーーん。やってるんだ。虎太郎、将来のこと考えてる?」と聞く。考えさせるように仕向けたくせにと、ちょっと、腹立たしい。僕は
「医者になる。」と決心したことを口にする。リュウは
「ふーーん。」と笑った声を出す。僕は
「リュウにできてるんだから、僕にだって出来る」と言う。
「ふーー ん。それは宣戦布告ぅ?」とリュウは楽しそうだ。
「絶対にリュウより優秀な医者になる。」と腹が立って言い返す。リュウが
「壮一郎、聞いた?」と入り口を振り返る。と、ドアに寄りかかった壮一郎さんとあやめがが立っていた。壮一郎さんは、
「すごく楽しみだ。録音するから、もう一度言って。」と僕をからかう。僕は恥ずかしくなって、真っ赤になる。あやめが
「2人とも、今すぐ、出て行って。」と壮一郎さんと、リュウの手を引っ張って、追い出した。
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