大きな河の流れるまちで〜番外編 虎太郎の逆襲〜

家族旅行

8月2週め。僕は退院する事が出来た。
リハビリにはまだ、毎日通う予定。順調に回復し、山下先生は
「若いって、いいな。感染も起こさず、治ったし。」と笑い、「ナナコさんに会えなくなるの寂しいよ。君の部屋によって、お茶するのは、楽しい、気分転換だったのに。」と残念がった。困った人だ。ナナコが来ているときに限って山下先生と、リュウが部屋に顔を出すのはきっと、偶然じゃあない気がする。リュウはきっちり、山下先生を牽制している。ついでに、救急外来の医長になった菅原さんも昔から、ナナコのファンなので、新参者の山下先生がナナコと2人きりにならないように日々お茶の時間にやって来ていて、僕を呆れさせた。
これで静かに勉強出来る。僕はリハビリ以外の時間は勉強に精を出し、あやめとの少し、大人のキスをおもいださないように注意しながら、日々を送った。(僕は健康な少年なので、あやめとのあれこれを想像し、シュミレーションするのはとっくに済ませてある。)あやめはいつも通りの態度で、でも、微妙に距離を開けて、僕を悩ませる。うーん。もう少し、時間がかかりそうかな。別に、急いではいないいんだけど、もう少し僕をオトコとしてみて欲しいもんだ。

あやめの家庭教師の永野と会うのは3週間ぶりだ。相変わらず、結構いいオトコで、気に入らない。
「やあ、足の具合はどお?」と僕の顔を見て笑う。
「本当は、お見舞いに行くつもりだったんだけど、君のお父さんに止められた。」とニッコリした。
「僕の本当の目的が何かわかったんじゃないかな。僕は医療機器メーカーの営業部長の息子でね。僕もその会社に入ることが決まっているんだよ。2年前、1度だけ、君のお父さんにパーティであっててね。この前、親父の名前をだしてきた。びっくりだよ。絶対僕の顔なんて覚えてないと思ってたのに。東野記念病院を建て直すって、話が出ててね。新型のMRIや、CTを売り込むのを有利に進めたくて、東野家や尾形家に入り込んで、仲良くなる、もしくは弱みを握れればさらに良いって事だったんだ。でも、バレちゃったな。だから、今週いっぱいで、家庭教師は終わり。東野家には黙っててやるから、家庭教師を僕の都合で辞めることにするよう、言われたんだ。君のお父さんはやり手だね。僕に貸しを作って、家族を守った。」と笑う。
「なんで、君に言っておこうと思ったのか解る?きっと、君が東野あやめと結婚して、あの病院を継ぐっていうのが、予想できるからだよ。君は優秀なんだってね。それに、曲がった事は嫌いだ。あのお父さんに育てられれば、まあ、そうなるか。次に会う時はいつになるかわからないけど、僕は君が欲しがるようなモノを開発して、売り込みに来るよ。その時に胡散臭いって思われたら、アウトでしょう。今のうちに信用の回復に努めておくって事だよ。未来の院長候補君。」と真面目な顔をした。僕は
「この事はあやめに言うな」と釘をさす。あやめは東野家に生まれた事で、巻き込まれなくていい事に巻き込まれたり、利用されそうになったりして、傷を負っている事を僕は知っている。
「君が望むなら。もちろん、言わない。信用のしてくれる?」とニッコリするので、僕は静かに頷いた。
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