恋した責任、取ってください。
1.私の春眠、暁を覚えました
 
春は何かと変化のある季節だと思う。

入学、進学、就職などで新しい環境に身を置くことになるのはもちろんのこと、心境的にも、友だち100人作ってみせる!と気合いが入ったり、イケメンがいるかしらとクラス替えに胸をときめかせてみたり、甘くてちょっぴり危ないオフィスラブに密かに憧れてみたり……。

とにかく、自分を取り巻く環境が否応なしにがらりと変わる、または自分の心持ち一つでどんなふうにも変えられる、良くも悪くも変化の季節ではないかと、私--天沢夏月は思う。

といっても、私は何も変わらないで欲しいと切実に願うタイプで、自分の意志と関係なく新しい環境に放り込まれると、性質上、胃が痛くなってしまう自他共に認める弱っちい人間だ。


仕事に対するやる気や熱意の問題じゃあない。

決して手を抜いているわけでも、楽をしたいというわけでもないし、やるからにはいつも全力で仕事に向き合っている自負はある。

けれど基本オドオドしていて、無駄な動きも多いので仕事が遅く、自分的には気を利かせたつもりでいても相手からすると余計なお世話、やることは間違っていないんだけど方向が斜めだから結局先輩の手助けが必要になってしまう。

情けないことに、部署に1人は必ずいる“使えない人間”の代表が、まさにこの私なのだ。


それでも前の部署の先輩たちは仏様のような人ばかりで、ミスを頭ごなしに怒鳴りつける人もいなかったし、気を利かせたつもりの余計なお世話も『次はここをこういうふうにフォローしてくれたら嬉しいよ』と優しく指導してくれ、なんとか2年、働いてこられた。

でも、今日から配属になった新しい部署には、どんな先輩がいるか分からない。


「ううぅ、胃が……胃が……」


廊下が永遠に続けばいいのにと本気で思う。

新しい異動先である『統括マネージメント部』に永遠に着かなければいいのに、と。
 
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