恋した責任、取ってください。
5.雨降れば地も固まるものです
 
8月。

先月の清掃イベントも滞りなく終わり、シーズンオフ期間中最後のイベントである、子ども向けバスケ教室の開催準備もなんとか完了。

あとはバスケ好きの少年少女たちを招いてイベントを行うのみとなった当日、私は、体育館に少し早めに集まってもらった今日のコーチ5人を前に最終確認に余念がなかった。


「皆さんには初級、中級、上級に分かれてコーチして頂きます。岬さんと溝内さんは初級クラス、ザキさんと黒井さんは中級クラス、佐藤さんは一人で上級の子たちを見てください。基本的に内容は皆さんで決めて頂いて大丈夫です。最後に選手対子どもたちでゲームをして終わりです--というのが、恵麻さんから託された今日の予定です。よろしくお願いします」


震える声で進行表を読み上げ、頭を下げる。

“大地さん”ではなく“岬さん”と呼んだことに対して、多少空気が変わったような気がしたけど、今はそんなことに構っていられない。

だって今日のイベントを仕切るのは私だけだ。

やばい、めっちゃ緊張してきた。

ああ、胃が、胃が……。


「おいおいウズラ、そんな青い顔してたら上手くいくものもいかなくなるって。見てるこっちが緊張してくる。いざとなったら大地さんを頼れ。ウズラ一人で頑張ることねーんだからサ」

「そ、そうなんですけど……」


ガタガタ震えが止まらない私を見兼ね、あっけらかんとした口調で緊張を解そうとしてくれたザキさんに、だからその大地さんを頼れないからこんなに胃が痛いんですよと心で悪態をつく。

そりゃ、私一人で場を仕切れるとは思っていないし、何かと助けてもらう場面も多いと思う。

つわりがひどく、顔を出せない恵麻さんによると、大地さんを毎年このイベントに駆り出しているから勝手は分かっている、心配しないで、とのことだったけど、でも、あれから大地さんとも佐藤さんとも気まずいし、15人の子供たちプラスその親御さんを相手にすると思うと、プレッシャーを感じないほうがおかしい。
 
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