恋した責任、取ってください。
8.まるで盆と正月のような奇跡です
 
そうして迎えた翌日。

会場設営の手伝いがあったので朝から体育館に向かい、職員さんや数人のサポートチームのメンバーとパイプ椅子を並べたりアリーナ席や家族席を設営した私は、いよいよ観客の入場が始まると、きっとここだろうと家族席に場所を移し、春沢さん親子が来るのを待つことにした。

毎週末の試合の手伝いはサポートチーム全員で持ち回りしている。

会場が遠いとなかなか同行できないこともあるけれど、できる限り手伝うのがブルスタの方針で、今回はホーム戦と、ちょうど私が当番だったこと、それと大地さんとの約束があり、朝からやけにソワソワしながら試合時間になるのを待っている。

と。


「あ、なっちゃんっ!」

「こら悠斗っ、何度言ったらわかるの、夏月お姉さんって呼びなさいって言ってるでしょうっ」

「あはは、わんぱく~」


続々と入場してくる観客の中に見知った顔を見つけると同時、こちらに気づいて手をブンブン振りながら駆けだそうとする悠斗くんに、お母さんが呆れ顔で注意しながら彼の首根っこをすかさず掴む。

【家族席はこちら】という案内板の前で出迎えると、見せたくて見せたくて仕方がなかったんだろう、あいさつもそこそこに悠斗くんがぴょんぴょん飛び跳ねながら「あのね! あのね!」とキラキラした目を向けてきて、私はその可愛らしさに緩む頬で「なあに?」ちょっと腰を屈めた。


「これは、応援うちわ! 名前もキラキラモールも全部僕がやったんだよ!」

「おお……!」

「これは旗! 古くなった菜箸と余り布で作ったから、なんと0円!」

「おおおお……! ふふっ」


彼の体には少しばかり不釣り合いに大きい袋から、そうやって一つひとつ取り出し、自慢げに説明してくれる悠斗くんの、なんと可愛らしいことだろう。

お母さんは「0円!」にたいそう恥ずかしがって「余計なこと言わなくていいの!」と彼の頭にげんこつを落としたけれど、最終的には「もう、この子ったら……」と仕方なさそうに頭に手を置いた。
 
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