汝は人狼なりや?(※修正中。順を追って公開していきます)
「……てよ」


 そんな中、寺山さんの怒りに震えた声が、部屋の中に響いた。

 叩かれた方の頬をさすりながら、狼谷くんは再び寺山さんのことを見下ろす。その焦点はすでに合っていて、真っ直ぐと寺山さんの姿を捉えていた。


「いい加減にしてよ、狼谷。そのお粗末なモノだけじゃなく、命までも再起不能にしてやろうか?」


 寺山さん、本気で怒ってる。聞いたことのない寺山さんの声音に、話し方に、僕の身体は無意識のうちにぶるりと震えた。

 周りのみんなもゴクリと固唾を飲み込み、その一連を不安そうに見つめている。だって、仮にも相手は機嫌を損ねたら何をしでかすか分からない狼谷くん……だから。でしゃばりでもしたら、自分がどんな目に遭うか分かりきっているから。

 やがて、自分が明確に〝誰に何を言われ、何をされたのか〟を理解したらしい狼谷くんは、ふらりと立ち上がった。

 背の高い彼を、寺山さんは見上げなければならない形になる。狼谷くんの表情は伺えないけれど、嫌な予感だけはひしひしと感じ取っていた。

 ──ゴッ……。

 それは、鈍くて重たい音だった。

 目にも見えない早さで、狼谷くんの丸められた拳が寺山さんの腹部に減り込んでいく。グーで殴り返したんだ。狼谷くんが、寺山さんのことを。


「ぐっ……ハァッ……!」


 苦しそうな声を出した寺山さんは、自分のお腹を抱え込むようにしてその場にしゃがみ込んでしまった。すぐに女子生徒たちが駆け寄り、寺山さんを心配したけれど……。


寺山(クソアマ)ァ……ここで、今すぐ、ぶっ殺してやってもいいんだぜェ……?」


 寺山さんを見下ろす殺意に満ちた冷たい眼光に、声に、言葉に、みんなは黙り込んでしまった。
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