溺愛モラトリアム 【SPシリーズ新城編】
「直に触っても?」
「いいわけないだろ」
「ですよね」
本当は素手で触れるのが一番良いのだが、これは大切な証拠品。容疑者の指紋がついている。ここに俺の指紋がつくのは、やっぱり良くない。
キャリアは自分のポケットから、白い手袋を取りだして俺に渡す。
持っているなら、最初から出せばいいものを。おそらく自分のものを俺に使われるのが嫌だったんだろうが、俺だってお前の汗がしみ込んだ手袋なんかしたかねーよ。
無言で渡された手袋を無言で受け取ってはめると、袋からフォークを取りだす。
柄を持ち、まぶたを閉じて集中する。
すると、まるで眠気が襲ってきたときと似た感覚が起きる。立ちくらみでもしたかのように、脳が揺れる。そこを耐えると、軽い睡眠状態になる。
睡眠状態になったと思うのは、まぶたを開けて見える光景が、今まで見ていた景色ではなく、対象物の記憶だからだ。
それは映画のように、脳のスクリーンに映し出される。俺はそれを、何もない空間でぼんやり突っ立って見ている。まるで、極彩色の夢を見ているかのように。
フォークが最後に人に触られたのは、あのパーティーの日。
慌ただしく準備をする従業員の中に、容疑者がいた。紫苑の頬を殴った、あのウェイター風のテロリストだ。