猫系男子の甘い誘惑
目覚めたら一枚だけ
「……頭痛い……うぅ、気持ち悪い……」

 呻きながら目を覚ました倫子は、室内を見回して愕然とした。見慣れた自分の部屋とはまるで違う。

 痛む頭を抱えながら、一つ一つ、自分の記憶をたどっていく。小橋倫子、二十七歳、職業OL、彼氏は――つい先日までいた。

 だが、問題はそんなところではない。まったく見覚えのない室内、というよりあまりにもありふれていて見たことないのに見たような気になってしまう画一的な設えの室内は、お手頃価格のビジネスホテルの一室であることを示していた。
 
「……嘘っ」

 ここでようやく気づく。スーツのジャケット――着ていない。シャツ、着ていない。その下に着ていたキャミソールも失われている。スカート、行方不明。ブラジャーは言わずもがな。

「……冗談でしょー!」

 今、自分が置かれている状況を確認して、倫子は改めてぞっとしてしまった。今、身につけているのはショーツ一枚。つまり、昨夜何かあった可能性が大なわけで。

「問題は、事前か事後かってことよ」
「……事後でーっす」

 二日酔いの頭に響く陽気な声に、倫子の肩がますます落ちた。

(こいつか! いくらなんでも、こいつとだけはあり得ないと思っていたのに―
―!)

 だが、身につけているのは一枚だけ。お相手の方はのほほんとした顔(風呂上りで腰に一枚巻いただけ。どさくさまぎれにしっかり観察したら、かなりいい体をしているという)で、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを飲んでいるという状況では認めるしかなさそうだ。
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