猫系男子の甘い誘惑
外に出ようか
 公共の駐車場らしき場所に車を停める。降り立った倫子は周囲を見回した。
 のどかだ。ここが普段生活している場所から車で一時間かからない場所だなんて信じられない。
 
「こんなところに連れてきてどうするつもりよ……」

 倫子の視線の先にあるのは、某宿泊施設の看板。どうやら、今の時間はフリータイムらしい。
 
 だが、そんな場所に行くために、動きやすい恰好をさせられるとは思っていない。
 
 他の目的があるはずだ。倫子の内面をくみ取ったかのように、佑馬はにっこりとして見せた。

「じゃあ、行きましょうか――山登り」
「はいぃ?」

 聞いてない。そんなこと全然聞いてない。今、さっくり山に登るとか言わなかっただろうか、こいつ。
 
 ここが観光地であるのは知っているが、山に登るのってすごく大変な気がする。
 
 いや、ここが某山のすぐ近くであり、倫子達の脇を通り抜けていくいかにも登山向けの恰好をしている人達は、登山のためにここまで来たであろうこともわかる――だが、倫子が山に登らねばならない理由がわからない。
 
「途中までロープウェーで。そこから歩いて三十分くらいかなー」
「おいこら佑真、ちょっと待て」

 倫子のことなんてまるで気にしていない様子の佑真の腕を、倫子は掴んだ。

「山登りって、そんなに簡単にできるものじゃないでしょ」
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