どこまでもパラレル
この人は約束を覚えているのかしら。
大学時代の恩師の通夜で久しぶりに見る直矢は、あの頃と変わらないように思えた。
薬指の指輪を真っ先に確認した自分に、少しあきれた。
そっと窺い見る直矢の表情は固い。
あの頃の笑顔はたぶん今日は見ることは出来ないだろう。
再会が葬儀の場であることが、恨めしい。
それとも、なんとなくもう会うことはないだろうと思っていた直矢を、こうして見ることが出来るだけでも幸せなのだろうか。
幸せ?
私はそんなことに幸せを感じるほど不幸せなのだろうか。
少し根元の痩せた薬指を無意識に隠すようにさすっていた。
手元に落としていた視線をあげると直矢と目があった。
軽い会釈を交わす。
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