御曹司さまの言いなりなんてっ!
地獄から天国?

 悪夢だわ。

 これってまさに、悪夢以外の何ものでもない。

 そんな風につくづく実感する私が現在居る場所は、エアコンが効いた、とある会社の入社試験会場。

 数多い募集者の間に埋もれながら、夏仕様のリクルートスーツに身を包み、白く細長いミーティングテーブルの席にゲッソリと座っていた。


 瑞穂からの衝撃の電話を受けた、あの日。

『どうか夢であってくれ』と願いながら会社へ飛んでいったけれど、現実は無情。

 電話で聞いた通りのチェーンと張り紙が、ドーンと目の前にぶら下がっていた。

 何も知らずに出社した社員たちが、青い顔で上司に詰め寄っている。


「部長! どういうことなんですかこれは!」

「俺も分からん! まったく分からん!」

「まったく分からんて、部長でしょう!? 分からないわけがないじゃないですか!」

「本当に何も知らないんだって! さっきから社長に電話してるけど、家電も携帯も繋がらないんだよ!」
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