思いは記念日にのせて

第七話


 メールアドレスを交換してから霜田さんとは距離が近くなったと思う。
 研修の班が同じなのもあるから一緒の時間も長いし、帰りは自然に一緒になることも多い。
 時々高部くんが霜田さんを追っかけて海外事業部の仕事内容を聞きまくっているからそういう時は三人で帰ったりもする。
 その中に美花さんも加わろうとすると、茅野くんが寄ってくる。そうなると結局五人で職場の研修の延長みたいになってしまう。

 今日は駅前の夢幻亭でオムライスを食べる約束をしていた。
 だけどこのままじゃ会社の駅近の居酒屋に行くことになりそう。
 すでに顔なじみなってしまってそうなくらいみんなでよく行く居酒屋。食べ物もお酒もおいしいけど、行けば必ず霜田さんが多く払うことになってしまうから申し訳ない。
 霜田さんは新人の研修を終えたらまず自分の部署に戻る。そして研修期間自分の仕事を替わってくれている同僚と仕事の状況や足りないことがあれば自分で補っているって聞いた。その後わたし達が待っている居酒屋に来て合流する。
 実質一番飲食していないのに先輩だから多く払わないとっていう思いがあるみたい。

「今日はふたりで抜けちゃおうか?」

 今日の研修時間残り十分ってところで霜田さんにこそっと耳打ちされた。
 わたし達がこんなやりとりをしているのに気づかないのか、研修ファイルをめくりながら三人は何を飲むか食べるか相談しあっている。
 霜田さんの意外な申し出にどう反応していいのかわからなくって、その顔を見上げると穏やかな表情で一度だけうなずかれた。まるで「任せて」と言われているような気がした。

「今日は俺ら参加しないからなー」

 霜田さんの声に三人が反応して一斉にそっちに向き直った。
 みんな目を丸くしてしげしげと霜田さんを見つめている。
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