思いは記念日にのせて

第八話(過去)


 小学校五年生の頃、国語の朗読でわたしの読み方がおかしいってからかわれた。

『出水ってなんで語尾あがるの? 声も聞いてるとアニメ見てるみたいな感じになる』

 クラスでもムードメーカーのやんちゃ系男子が言い出したことだった。
 教室中笑いの渦が巻き起こった。
 それが先生不在の自習の時だったからやっかいで、なかなか騒ぎが収まらなかった。

『別にいいんじゃない。僕は好きだけど』

 ぼそっとそうつぶやいたは悠真だった。
 クラス中の生徒の注目が悠真に向けられても一番後ろの席で何食わぬ顔で自習の書取を進めていた。
 悠真は小四の時、うちの隣に引っ越してきた転入生だった。
 父親がクオーターで、色素の薄い悠真は髪は栗色で目もヘーゼル。鼻も少し高くて外人って感じではないけれど少し日本人離れしたかわいらしいタイプ。
 ただ体型がぽっちゃりしていたから女子にはもてなかったけれど。
 引っ越してきた当初、一緒に学校に行くようお母さんに言われてしぶしぶ従ってた。
 人見知りなわたしは話しかけることもできなかったけど悠真は積極的に声をかけてきた。
 しばらくアメリカ暮らしだったという悠真は何もかもが珍しいみたいでポストも駄菓子屋さんも目を輝かせて「あれはなに?」って聞いてきた。
 そんなふうに何でも聞かれるのがめんどくさくて素っ気なく答えても必ず「ありがとう」と笑顔で言ってくれた。

 悠真の気さくさや人懐っこさがまぶしくて、わたしはなんとなく引け目を感じていたんだ。
 
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