思いは記念日にのせて

第二話


 その数日後。
 わたしはシモダさんから借りた傘をもって入社試験を受けた会社にやってきた。
 どんな服装で来ようか迷った末、結局試験の時と同じリクルートスーツ。
 別に試験でも面接でもないんだから私服でもいいんだろうけど何故か改まってしまって。
 髪もあの日と同じきっちり一本結び。しっかりと前髪も上げてなにしてんだかって感じだ。
 でも同じ格好じゃないと思い出してもらえないかもしれないから。

 受付でシモダさんの名前を告げて傘を借りた日にちを言うと、部署に問い合わせしてくれているみたい。
 なのでじっと待つけども。

「申し訳ございません。ただいま外出しているとのことでこちらでお預かりいたします」

 あっさりと不在を言い渡された。
 この傘をここで渡してしまったら二度とシモダさんに会う機会はないかもしれない。
 いや、採用されていればいつかは会えるかもしれないけれど自信がない。自分なりにアピールはできたつもりだけど。
 ちらっと腕時計に目をやると、午後五時十分前。

「あのっ、待たせていただいてもよろしいでしょうか? どうしても直接会ってお礼がしたいので」
「申し訳ございません、本日は直帰の可能性もあるとのことです」

 すかさずぺこりと頭を下げる受付嬢。
 ううう……それじゃ待っていても会えるわけがない。かといって出直しますって言うのも不自然だ。
 しかたない。諦めよう。

「それじゃ、お願いします」
「はい、責任をもってお預かりしますね」
< 5 / 213 >

この作品をシェア

pagetop