強引上司の恋の手ほどき
エピローグ
《エピローグ》

それから約一年とちょっと過ぎた四月一日。

本日付で、JET電機株式会社は日芝電器株式会社へと変わる。

郡司さんは、日芝電器の営業統括部長に就任しあの大きなビルの中心で働くことになり、これから一番上を目指す新しい一歩を踏み出した。

一方私は……本社ではなく、近くの営業所へと配属になった。

営業所とはいえ三十人の営業さんを事務員五人でサポートしなくてはいけない。

経理しかやってこなかった私にとっては、未知の分野だ。でも新しい仕事をするのは嫌いじゃない。

新たな気持ちで、新しい環境で頑張ろうと思っているし、周りのそのほうがいいと勧めてくれた。ただひとりをのぞいては……。

「なぁ、本当に本社勤務じゃなくていいのか?」

「しつこいですよ。いまさら遅いです。郡司さんも早くしないと遅れますよ」

着替え終わってやる気にみなぎる私とは正反対で、彼はまだベッドの中でうだうだしている。

「だって、営業所なんて全然顔がみられないじゃないか。お前の下手な鼻歌も聞けない」

下手な鼻歌は置いておいて、顔が見れないのは私も辛い。

けれど、少し距離があったほうがお互い仕事がしやすいのではないかと思う。
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