青い髪の紫陽花―雨に咲く恋
雨の縁

姐さんとオレ

 「おい、ポッキー買ってこい」

 「は、はい。今すぐ」

 オレは、「姐さん」雫(しずく)姐さんから、小銭を受け取って、「たまり場」の屋上から、雨がしとしと降る中を走ってコンビニへ向かった。そして、姐さんが好きなチョコのかかったポッキーを2箱(いつもどおりだ)買って、すぐに姐さんの元に戻った。

 「30秒遅れた」

 「すみませんっ!!」

 「まあ、今日は雨だし、いいよ。要るか?」

 「ありがとうございます!」

 姐さんは、ポッキーの袋をがさりと開けると、1本引き抜いてオレに渡してくれた。その瞬間、姐さんの手がオレの指にふれて、オレは胸がパンクしそうに高鳴って、真っ赤になっていないか心配になった。

 もうわかったと思うが、オレは姐さんのことが好きだ。恋、というか、敬愛、そして女性としても魅力的な姐さんの姿に、オレは一生ついていくつもりだ。
 姐さんは、喧嘩が強い。孤独な一匹狼で、オレ以外に親しくしている人間もいないようだが、それで結構ご本人は満足しているらしく、オレは唯一の弟子だ。姐さんの背中を見て暮らせる、たったひとりの男。舎弟にすぎないとしても、オレは満足だ。大好きな姐さんの近くにいられて、一生使い走りでも……。
 
姐さんは、がさつで乱暴だが、根はやさしい。髪の毛は真っ青。目立つことこの上ないが、なぜ青い髪なのか、誰も知らないし、オレも知らない。ずっといじめられっ子だったオレが、ちょうど梅雨の時期にカツアゲされようとしているところを救ってくれたのは、この青い髪の闘う紫陽花。それ以来、オレは姐さんの強さにほれ込み、一生懸命姐さんに仕えているのだ。しかし、勉強は怠らないし、髪も染めていなければ、制服もきちんと着こなしている。それは、姐さんの教えだ。姐さんいわく、「お前は普通の世界で生きろ」とのことだ。だが、なんとか昼休みの姐さんの休憩時間には、この屋上でいっしょに過ごさせてもらっている。

「退屈だな」

青い髪をかきあげて、姐さんがあくびをした。

「そうですね。雨ですしね」

「ゲームをしようか」

姐さんが、いたずらっぽく持ち掛けてきた。オレは、何の気なしに聞いた。

「また、何か遊ぶもの買ってきましょうか」

「そうじゃねえよ。私とお前の、裏庭での一騎打ちだ」

オレは耳を疑った。

「な、何言ってるんですか!!今は雨ですよ。それに、オレが姐さんに勝てるわけが……」

「勝てない、って決め込んでいたら、いつまでも勝てないさ。お前が、もし私に勝てたら、青い髪の由来を教えてやるよ」

 そうだ。姐さんに勝てないままだと思い込んでいたオレは、恥ずかしくなって、受けて立つことにした。

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