阿漕荘の2人

夏の終わり 3

紫子side

阿漕荘を後にして我孫子の車にもう一度
紫子は乗り込んだ

彼女が助手席のシートベルトをしめる

「あれ、なんか香具山さん?
機嫌良くない?何かいいことあったのかな」
「あー終わり良ければ全て良しって感じやな?
有終の美を飾ったといいまっか
飾られたっていいまっか」

「ふうん
なんかよく分からないけれど
良かったね

どうこれ、さっき自販機で買ったんだ」


冷たいペットボトルのお茶を渡された

実は、茅駅まで歩いてくるまでに

相当な体力を消耗し

喉カラカラだった紫子


これは素直にうれしい


「わぁーうれしいなぁ
流石、櫻子の彼氏はんやな!
気ーきくな!」

我孫子がクルマのエンジンをかける

車内はクーラーが効いて
大変涼しい

紫子はキャップを外し、お茶を飲む

ーゴクっゴクっ

車は信号で止まる

車内はラジオが流れてる

洋楽がリクエストされている

2人は何も喋らない

時間は6時30分

まだ日も明るい



あれ?なんやろ?


なんか酔ってる、じぶん?

心臓ドキドキしてるんちゃうの?

ゆっくり、目が周り始めてきた


なんか……今夜……

今夜、特別なことが、

そう、特別な、スペシャルな、

あらま、同じやん。

なにか、おこるのでは、あるまいか…

アリマイカ?イカ?


「暑いの?」

「…んー確かに、浴衣って
見た目ほど涼しく
あらへんな」

「今日、忙しかったからね」

「なんや知らんけど

汗かいてきたなー」

「シャワー浴びたいの?」

「うーん
やだぁ、我孫子くんたらぁ」

なんか変な気分やなぁ

いややな、我孫子くんは

櫻子はんの彼氏様やのに……


うち……なんか……

変な事言いだしそうやな……


ブレーキ、ブレーキ

お口は急には止まらない

自分の口を手で押さえて

クスクス笑いだす

可笑しいのだから

笑っていた方が普通なのだ

「どうしたの?

パーティーはこれからだよ、

酔わんでくれよ?」


「くれよんだって


酔わんでクレパスなぁ」

「大丈夫?」


「大丈夫さぁ、

全然平気さぁ、

なんのこれしき、ササニシキ」


タダ酒のチャンスなんや

しっかりしろ、じぶん

サンザイイチグウの大チャースな。

あれ、

なんで洗剤の中で、1番グットなのが

チャンスなんやろ

ああ、チャンスは、商品名やな


アタックチャース。


うちんとこはアタックやったな

ナンバー1や

なんか可笑しいなぁ

酔ってるんかな

まぁ楽しいから、許そうなぁ

あーもうダメやな

れんちゃんの土産

こうてへんやんか……



眠いなぁ、


いつ着くんやろ


ちょいとだけ、


ほんのちゅびっと


寝てもうかな……






「香具山さん?

着いたよ」


我孫子 圭介は隣をみる


香具山 紫子はピクリとも動かない


「……」



身体をゆらす


起きる気配はない



「………パーティーの始まりだ」
< 14 / 91 >

この作品をシェア

pagetop