阿漕荘の2人

夏の終わり 5

練無side

深夜2時過ぎ 阿漕荘 森川邸

小鳥遊 練無と 森川 素直はレポートに
追われてる

森川は夕方に2時間ぐらい寝たが
練無はずっとお勉強だ

流石、難関医学部生だけあって
2人の集中力は並大抵のものではない

「ねぇ、森川……」

「どうしたの?」

「しこさんさぁ、まだ帰ってきてないんだよ」

「なんでわかるの」

「だって僕ずっと起きてるもん」

「レポートに集中してたんだよ」
「このアパートのボロさは充分承知だろ

誰か二階に上がるたびに物音するじゃん」

「……毎回、誰かが帰ってくるたびに
カーテン開けて確認してたんだ……」

「……」

「香具山さん、誰かと飲んでるんじゃない?
彼女、友達と朝まで飲むなんてよくやってるじゃん

基本、彼女、夜行性人間だし」

「…そうだけど、しこさん、
今日は浴衣だよ
いくらしこさんでも浴衣で
酒飲んだりするかな
そのまま、寝たらシワになるじゃん」

「じゃ着替えたんじゃないの」

「……着替えなんて持ってなかったよ
巾着に入る着替えがあるなら
別だけど……」

「借りたんだよ」

「誰に?」

「……知らないよ」

「…僕、電話してみようかな……

こんな時間じゃ失礼かな……

でもなぁしこさん、基本、常識ないし

非常識人間には非常識な対応がもとめられるよね」

「…止めなよ」

「なんで」

「なんでって……」

「寝てるかな」

「寝てるならまだいいじゃん」

「何がいいたいの」

僕はシャープペンを置く

近くのコーラの缶に手をのばす

「ねぇ小鳥遊くん

香具山さんは友人なんでしょ

あたたかく見守るのが友達じゃないの?」


「何を見守るの?夜遊び?」


「あー小鳥遊くん!
僕はレポートで忙しいんだ!」


暫しの沈黙

通算3度目

レットカード1枚


そして退場


「……わからないんだよ、僕も

自分でよくわからないんだ

彼女といるのは本当に楽しいし

楽なんだ

でも、さぁ、もう1年半もそんな感じだし

ほら、友人でも嫉妬はするだろう

友達取られて悔しいって


しこさんのことは大事だよ

凄くね

でも、それが恋愛感情なのか

よくわからない」

「…今日みたいな事は

この先何度も来るよ、香具山さんも

女の子なんだから


そういう日が絶対来る


その度にキミは泣きそうな顔をするのかい?」


「止めてよ!!

違うっていってんじゃん!!」


「なんで キミがわかるのさ」

「……」

「あーもう、グズグズするなよ

キミらしくないよ」


「……電話してみるよ」

練無は机の上に置いてある

携帯電話を取る

震える指でしこさんのナンバーをかける

練無は自分の心臓が高まっていることに
気づく

電信音が耳に鳴り響く

突如、がちゃりと切れた


「……」

「小鳥遊くん?」

「しこさん……電話切った……」

「…ボタンを押し間違えたんだよ」

もう一度掛け直す

しかし今度は……

電信音すら聞こえない

決まったトーンの機械音のみ……


「しこさん……電源切った……」

「そう……」

「なんで……」

「…小鳥遊くん……もうわかってんだろ

……仕方ないよ……諦めなよ……」

「……だってそんな人いるなんて

一度も言わなかったよ」

「僕らが知らないだけだよ」

「今日だって、あんなにか……

浴衣着て友達とって」

「そういうことだろ」


なんで、しこさん?
じゃあなに?

おめかしして
普段は絶対着ない浴衣なんて着て
頭に華のコサージュつけて

出かけたのは…………ダレノタメ?

なんでだよ

どうして僕じゃないんだよ

僕ほどしこさんのこと

思っているヤツなんているものか



練無にはもうレポートをやる気力なんてなかった


寝てしまおうか

でも、寝たら朝が来る

朝が来れば

しこさんが帰ってくるだろう


その時自分は

彼女の顔を見ることが出来るだろうか


笑顔で迎えることが出来るんだろうか


隣人として友人として


事実を受け入れられるだろうか


その時、自分に残るのは

嫉妬と後悔……





練無の携帯がバイブで揺れた


練無は思わず携帯を覗き見る


予想外の写真……


えっ?

んっ?


どういうことだ?



何処だここ?




落ちつけ、落ちつくんだ


彼女は4時にここでた

なぜだ?

花火大会は午後7時からなのに


友達と待ち合わせしてたんだぞ

どうしてもう一度家に帰るんだ?

あの時彼女は下駄を履いてた

浴衣に下駄

でも夏祭りの会場は海浜公園

砂場だぞ

下手したら濡れるんだ


何故、木で出来た下駄で行った?

ミュールかサンダルでいくだろ?

浴衣だぞ、着物じゃないんだぞ

浴衣……


そういえばしこさん

浴衣どうやって着たのかな

あれは作り帯じゃないぞ


それに何処で買ったんだ?

今日のために?

もともと持ってた?

いや、浴衣なら持っててもおかしくないけど
しこさんの性格考えると

女物の浴衣なんて……

実家か?

芦屋のお嬢様さまだし……


お嬢様?

しこさんって実はお嬢様だよな?


下駄……

履き替えたのか……


何故だ…


電話……

そしてこの写真…


あっ!!


そういうことか!!



「森川!

この写真の場所の特定をしてくれ」

「何写真って………

ちょっとこれ!!

えっ!!

場所知ってどうするの?!」

「のりこむんだよ」


「はぁ?のりこむ?
本気かよ?」


「そうだよ…緊急事態なんだから
早くしてくれ!」


「……ホテルにのりこむって……

僕は何も知らないからな……」


森川 素直は場所の解析を始めた


< 16 / 91 >

この作品をシェア

pagetop