指先からはじまるSweet Magic
ギリギリの理性と男の本能
着替えを終えて出て来た圭斗は、で、どうしたの?と私に聞く姿勢を向けた。


いつもの圭斗と何にも変わらない、ほんわかした柔らかい表情。
圭斗と私が話し始めてから、細川さんは私達に背を向けていた。
だからこそ、本当はすごくこっちを意識してるのが感じられて、私は圭斗に何も聞けない。


だから。
用はないの、と身体を縮めるしかなかった。


ここまでわざわざ来ておいて?というように、圭斗は目を丸くして、そんな疑問を無言で私にぶつけくる。
そして、話題を探して困ったような微妙な表情を浮かべた。


居たたまれなくなって立ち上がった。
帰る、と呟く私を呼び止めて、圭斗は自分も荷物を手にした。


「なら、一緒に帰ろう。俺、車だから」


躊躇いも見せずにそう言った圭斗に、細川さんがチラッと失望に満ちた目を向けるのに気付いてしまった。


きっと、一緒に帰るか食事に行くかの約束をしてたんだろう。
私だってそのくらいはピンと来る。


目の前で助手席の荷物を後部座席に片付ける圭斗の背中を見つめながら、私は、細川さん一人を残して来た研修施設を振り返った。


「よし。オッケ。里奈、乗って」


大きく助手席のドアを開け放して、圭斗はニッコリ笑って私を誘う。
圭斗があんまり普通だから、なんだか私の方が妙な罪悪感を感じてしまう。
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