指先からはじまるSweet Magic
隠した本心と幼いメモリー
圭斗はどうして私にキスをしたの?


私はどうして圭斗のキスを受け止めたの?






左手で頬杖をついて、右手で意味もなくマウスを動かす。


パソコンモニターに次々と展開されるのは、ただの連絡メールだったり、過去のデータ集計のエクセルだったり、クライアントに向けた請求書のワードだったり。


とにかく何の脈絡もなく、瞳には映っていても、全く頭には残らない。


ちょっと早いけど、お昼休憩を取ってしまおうか。
後三十分パソコンに向かったところで、何一つ仕事は進まないと思う。
それならいっそ、気分転換してしまった方が、いくらか能率的というもの。


簡単に自分を甘やかして、小さなバッグを持って席を立とうとした時、向かい側の島で人目を憚ることもなく楽しそうに会話してる後輩の姿が見えた。


大人しくて目立たないけど、周りから『いいお母さんになるだろうね』と言われてる一つ下の後輩の愛ちゃん。
その愛ちゃんが頬を赤く染めて嬉しそうに会話する相手は、私が担当する営業マンの長谷さんだ。


きっと、お昼一緒に行こうよ、とか誘われてるんだろうな。
でも愛ちゃんも嬉しそうだし。
あれならもしかして、年内にも幸せな報告を聞くことになるかもなあ……。


なんだか耳年増のおばちゃんになった気分でそう思いながら、そんな自分に苦笑した。
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