空っぽのイヤホン(仮)
「引っ越す前に、あの曲いっぱい聴いときたい。…聴かせて?」

『あの曲』とは、いつか2人で聴いた夏の歌のこと。

私はゆっくり制服のポケットからミュージックプレイヤーを取り出して、五十嵐に渡した。

イヤホンはいつも、分けっこ。

アコースティックギターの音が
歌詞を辿るメロディラインが

あんなに好きだったのに。

きっと私は、五十嵐がいなくなった後
この歌を聴けなくなるんだろう、と確信していた。

五十嵐を好きになったのは一瞬で。

五十嵐からしても、私が降ってきたのはあまりに突然のことだっただろうし。

高校生の夏に、初恋を体験するなんて思わなかった。

こんなに辛いなら、知らなくてよかったのに。

「……みっこ?」

五十嵐の声に私ははっとする。

いつの間にか曲は終わっていた。
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