あの日のきみを今も憶えている
どれくらい、そうしていたのか。
繋がった手は汗ばんで、熱がこもっていた。

今、園田くんの体の中にはたくさんの感情が溢れている。
それをゆっくりと吐き出すように、園田くんは深く息をついた。
それから最後に、小さく思いを落とした。


「どうして、死んだんだよ。俺を置いて、どうして死んだんだよ、美月」

「……あたしだって、死にたくなかった」


ふいに背中で声がして、びくりとする。そっと後ろを見る。
いつの間に目覚めたのか、美月ちゃんが体を起こしていた。
大きな瞳から涙をころころと溢れさせて、美月ちゃんは叫んだ。


「あたしだって、死にたくなんてなかった! ずっとあーくんの傍で生きていたかったよ!
でもしょうがないじゃない! あたし、死んじゃったんだもん!」


美月ちゃんの叫びは、園田くんの背中に届かない。
振り返ることのない園田くんの背中に、美月ちゃんはぎゅっと唇を噛んだ。


「ねえ、こっち見て! あたしのこと見てよ! 声を聞いてよ! ヒィ越しじゃなくて、あたしを見て!」


園田くんは、片手で顔を覆ったまま、動かない。
美月ちゃんがこれだけ泣いているのに。
これだけ、求めてるのに。

果たして、美月ちゃんが、あはは、と哀しく笑う。


「見えない、よね。分かってる。あたし、死んじゃってるんだもん。幽霊だもん……」

「美月……、なんで、死んだんだよ……」

「……あたし、ここにいるよ? あーくん」

「美月……」

「ここに、いるよ。まだ、ここにいる。だから、見て……」


ああ。
どうしてこんなにも、残酷なまでに、何も伝わらない。


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