ラブエンゲージと甘い嘘
第一章 その男、詐欺師?につき
こんなことなら、祖母のところに寄るんじゃなかった。

久しぶりに顔を見せた私を笑顔で迎えてくれた祖母。ついつい話に付き合っていて予定していた出発時間よりも大幅に遅くなってしまった。

電車じゃなくて、タクシーに乗らないと間に合わない。そう判断した私はタクシーが止まっている駅前まで急ぐ。

お気に入りのパンプスだったが、こういうときには役にたたない。そもそも待ち合わせ相手、親友の森川柚葉(もりかわゆずは)に言われて、いつもよりも少しおしゃれをして出かけていた。

おしゃれには多少の我慢が必要……。私は少し痛む足を気にしながら早足で歩いた。

おかげで祖母に「デートかい?」としつこく聞かれて、どっと疲れた。

新緑のまぶしい五月。

子どものころよく遊んだ公園を横切ると、青々とした木々が風になびいているのが目に入る。普段、家と仕事の往復ばかりで周りを見る余裕がない生活をしているせいか思わず足を止めて、見入ってしまった。

……ウーウー

スマホが鳴ってディスプレイを確認する。そこには柚葉の名前があった。

まずい。こんなところでのんびりしてたら完全に遅刻だ。

私は通話ボタンをタッチしながら歩きだした。
< 5 / 19 >

この作品をシェア

pagetop