坂道では自転車を降りて
 5分の我慢だ。ため息とともに眺めると、大野多恵が同じドア付近の反対側に立っているのが見えた。俺より後に現れたのか。この電車だと遅刻ギリギリの筈だ。真面目な彼女でもこんな日もあるんだな。いつもすずしげな顔で凛として立っている彼女も、今日ばかりはかなり不快そうな顔で俯き、身体を強ばらせていた。

 彼女の横顔を眺めながら、小さいなと思った。女なんだから当たり前なのだが、普段は堂々とした立ち居振る舞いのせいで、小さいと感じた事はなかった。彼女の隣にはものすごく大きな体格の大学生くらいの男達がいて、潰されそうになっている彼女が余計に小さく見えた。
 その手前には通勤のオヤジ。50代くらいかな。OLもいる。みんな大変だな。思いながら目を閉じる。俺も将来は通勤ラッシュに揉まれて通勤するオヤジになるんだろうか。毎日、会社と家を往復してローンに追われて。。仕事は楽しいのかな。

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