男はやめたのだろうか。確かめたいけど、怖くて顔が上げられない。しばらくしてやっと顔を上げると、俯く彼女の頭が見えた。男は真っ直ぐ立っているように見えるけど、本当にやめたのかはよく解らない。本当に痴漢をしていたのかさえ俺には分からないのだ。これ以上はどうしようもない。男も彼女もそのまま動かなかった。そうこうしている間に電車は次の駅に着いた。ドアが開き、電車を降りるとき、どうしただろうと思って見ていると、彼女は電車から離れて背を丸めて立っていた。男は立ち去ったようだ。声をかけようか迷っていると、突然、彼女が顔を上げたので、俺と目が合ってしまった。彼女はびっくりしたように目を反らし、逃げて行った。まさか、痴漢男と間違えられたんじゃないだろうな。電車の去ったホームで俺はしばらく立っていたが、すぐに学校へ行くことを思い出した。まあいいや。あの子、今度は上手く乗れるといいけど。
 朝からどっと疲れてしまった。結局、俺は何か役に立ったのだろうか。よくわからないままだった。