坂道では自転車を降りて
 しばらく飲み食いした後、公演の打ち上げは、引退する3年生の送別会へと切り替わった。3年生の先輩はそれぞれ思い出を語り、花を受け取る。

 俺は最初、鈴木先輩の近くにいたが、女子に追い出され、座るところを探して部屋を見回した。大野多恵が見つからない。まあいいか。部屋の隅が空いていたので移動すると、そこに大野多恵がうずくまっていた。清水先輩が彼女の背中をさすり、ブラウスの裾から服の中へ手を入れ、ごそごそさせている。

「すみません。」
 彼女がいいながら、横になる。清水先輩は無言で膝枕をしてやっていた。気になったので、そばに座り訊ねた。

「大野さん、どうしたんですか?」
「ちょっと、具合が悪くなっちゃったみたい。」
「家に帰さなくて、大丈夫ですか?」
「大丈夫。今は帰さない方がいいわ。」

 彼女は赤い顔で、息苦しそうにしていた。熱でもあるのか。でも、乾杯の頃は普通に元気にしてたのに。見ていると、清水先輩に声がかかった。挨拶の順番がきたのだ。
「神井くん、大野さんをお願い。」
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