甘い恋の賞味期限
重なる偶然をナッツと共に噛み砕く
 間宮グループのトップに君臨する間宮 勝彦。当然ながら、会ったことはない。
 だが、顔くらい社員なら誰でも知っている。怖そうな、厳しそうな顔の写真ばかりだったから、勝手にそんな感じの人なんだろうな、と思っていた。
 そんな人物が目の前に現れたら、誰だって緊張すると思うし、逃げ出したいと思うはず。

「そちらの女性はーー」

「もしかして、千世さん?」

 勝彦が言い切る前に、隣の女性が驚いたような、けれども嬉しそうな顔で千世を見る。

「お母さん、落ち着いてください」

 史朗の言葉で、この和服美人が母親だと言うことが分かった。

(専務はお母様似なのね……って、そんなことどうでもいい)

 今はこの場から、一刻も早く離れなければ。

「わ、私、失礼しますね」

「あぁ、待ってちょうだい。私、貴女に会いたいと思っていたのよ」

 しれっと逃げようとした千世を、今度は息子ではなく、母親が呼び止めた。手首をがっしりと掴まれたかと思えば、ぐいっと距離を縮めてくる。

「いつも孫がお世話になってます。祖母の薫子です」

「ど、どうも。槙村、です」

 ち、近い……。
 そう思っていても、薫子は気にした様子がない。千世の困惑をよそに、話はどんどん先へと進んでいく。

「てっきり和音さんと来るのかと思っていたわ。千世さんと来たのね」

「いや、彼女とは偶然会っただけで……」

「なら、猪寺さんとこのお嬢さんは、会場にいるのか?」

「いえ、体調が悪いそうなので、先に帰りました」

 3人が交互に話すので、千世が割り込む隙がない。
 どうにかこの場から逃げ出したいのに……。

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