甘い恋の賞味期限
 メープルシロップとバターの組み合わせは、シンプルで家庭的。
 でも、史朗が食べて来たホットケーキはいつも、少しばかり手が込んでいた。生クリームたっぷりで、フルーツもたくさん飾られていたのを思い出す。

「……ほっとけーき……」

「……そんなに食べたかったのか?」

 眠る息子を見つめ、史朗は申し訳ない気持ちになる。母親がいれば、もっと愛情を注いでやれるのに。

「なぁ、ママが欲しいか? 欲しいなら……」

 恋愛は面倒だが、母親探しとなれば別だ。
 たったひとりの息子が望むならば、何回だってお見合いする。息子を愛してくれる女性ならば、家柄も何も関係なく結婚を申し込む。
 だが世の中は、そんなに都合良くない。千紘の性格の悪さを知ると、大抵の女性は迷うものだ。雇った家政婦だって、千紘の相手をし続ければ辞表を出す。
 静子が続いているのは、奇跡にも近い。

「おやすみ。また、明日な」

 頭を撫でて、部屋の灯りを消す。
 今度の休みは、一緒に過ごした方がいい。最後にふたりで出かけたのは、いつだっただろうか?

「……シャワーだけ浴びて、今夜はもう寝よう」

 本当に、今日は疲れた。両親と会う時は、いつも疲れる。離婚した負い目があるからなのか、両親にはあまり強く出れない。
 だが、再婚の話を持ち出されるとは……。
 千紘のことを思えば当然とも言えるのだが、まるで義務のようで肩が重い。
 しばらくは、再婚よりも仕事と息子のことだけを考えていたいのに。

「明日は何時起きだったか……」

 バスルームへ向かいながら、腕時計を外す。適当な場所に置いて、いつもどこへやったか分からなくなってしまう。
 それを知っているはずなのに、また適当な場所へ腕時計を置いてしまった。
 明日の朝、また探すのだろう。
 それが、毎朝の恒例行事だ。

< 22 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop