甘い恋の賞味期限
「生意気なの? きっと、大人ぶりたいんだよ。もしかして、年下なこと気にしてるのかも」

「調子に乗ってるだけじゃない? 年下だからって甘い顔見せてたら、後々大変になるわよ」

 ふたりが、とても盛り上がっている。
 それを見守りつつ、千世はプリンをどうしようか悩む。作るのは平気だが、本当にあの子は来るのだろうか?




*****

 土曜日ーー史朗はその日1日を、息子の千紘と過ごすつもりだった。
 だから、家政婦の静子も来ない。
 それなのに、史朗は今日もスーツを着ている。

「嘘つき」

 ネクタイを締める父親を、千紘は恨めしげに睨んでいた。

「悪かった。明日も休みだし、遊びに行くのは明日な。静子さんには連絡したから、いい子にしてろ。な?」

「…………」

 千紘は機嫌悪そうにそっぽを向くと、騒がしい足音を立てながら自分の部屋へ行ってしまった。

「仕方ないだろ。お前の母親になるかもしれない人と会うんだから」

 母の薫子は、行動が早かった。神戸の藤子さんに早速連絡すると、1週間も経たないうちに見合いをセッティングした。相手については知らないが、向こうはこちらを知っているらしい。
 だが正直に言ってしまえば、乗り気ではない。母親を探すよりも、息子との時間を優先させた方がいいような気もするし。

「……はい」

 スマホが鳴って、史朗は顔をしかめる。相手は母親だ。

『史朗さん? 今、どこかしら? 今日の約束、覚えているわよね?』

「分かってますよ。今から出ます」

 この心配ぶりーー自分の息子が、逃げ出すとでも思っているのだろうか。

『本当に、千紘を連れて来ないの? 会わせた方が良いのではない?』

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