イジワル上司の甘い求愛
嫌いなアイツ
「太郎さん、好きです」
「ごめん、チャキはそんなんじゃないだ」

砂埃のするグランドの真ん中。

ピッチャーマウンドに向かい合った私と学ラン姿の彼。

目の前にいる私よりずっと背の高い彼が気まずそうに視線を反らす姿が涙でぼやけて見えてきた。


うぅぅぅぅぅ-----


グランドに突然、試合開始を告げるサイレンの音がけたたましく鳴り響く。


ピピピピピピ-----

サイレンの音は、なぜだか次第に甲高い電子音に変わっていく。


はっ!!

その音が、試合開始のサイレンの音なんてものじゃなく、スマホの目覚ましのアラーム音だと気付いた瞬間、私はベッドから飛び起きた。

よかった、夢だった。

だけど、久しぶりに思い出したなぁ、あの頃のこと。

胸にほろ苦い初恋の想い出が蘇ってきて、胸が少しだけ苦しさを覚えた。

だけど、すぐにあいつの顔が浮かんできて、私はその気持ちを打ち消すように起き抜けの髪の毛を掻いたせいで、さらに髪の毛がぼさぼさになったのは言うまでもない。


それから私は自然と目尻に溜まっていた涙を指ですくい、慌ただしく仕事の準備を始めたのだった。
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