有害なる独身貴族
「……疲れた、な」
どんなに取り繕ったって、私を形作るものが変わるわけでもない。
そう思ったら、心臓が大きくドキンと鳴る。
これまでの努力に似た行動が急にバカらしく思えて、ランドセルから作文用紙を取り出して、衝動的に破いて川に投げ込んだ。
消えてしまえ、嘘つき。
うっかり湧き上がりそうになる涙を寸前でこらえる。
ねぇ、どうして。
私がこんな気持にならなきゃいけないの。
私が悪いわけじゃないじゃん。
私を勝手に産んだのはアンタたちじゃん。
手すりを掴んだ手に力を入れる。
飛び越えるのなんて簡単だ。
私は成長が早く他の子よりも大きい。
両腕で上半身を持ち上げ、腰のクビレを欄干の上にのせる。
後は重心を前にかけるだけ。
天秤のように、体をまっすぐ伸ばす。
頭に重さをかければ落ちる。
水の音がさっきより大きく聞こえる。ざあ、ざあ、ざあ。
さあ、おいでよ。
辛いことなんか何もない世界へ。
水面が私を誘う。
上体に重心をかける。水音が近づく。この手を離せば落ちる。
そうしたら全て終わり。
「……っ」
それでも、私の体は落下できなかった。
髪が逆さまになった途端、突然に恐怖に襲われ、お腹に力を入れて自分の上体を無理矢理に起こす。
そして、しゃがみ込むように地面に崩れた。安定しない視界に、体が震えているんだと理解した。
怖いんだ。
そう分かって、笑いたくなった。
だけど、口からは乾いた浅い息しかでない。
スカスカと抜けた息は、何事もなかったように空気に溶けこんでいく。
悔しい。
死ぬのが怖いだなんて。
生きてていいことなんて何もないと思うのに、死ぬと思ったら怖いなんて。
まだ未来に、期待したいと思うなんて。