有害なる独身貴族

テーブルに、ほかほかになったおじやと水を置き、手を合わせた。


「いただきます」


まあ、なるようにしかならないしな。


私が告白した時、数家さんは今までどおり接してくれた。
それが嬉しかったし、仕事もしやすかった。


私もそうしよう。

ごめんねって言ってから、これからもお仕事頑張ろうねって言おう。
うん、決定。


心が決まると気分も軽くなる。
それに、片倉さんの料理は美味しい。今日温めたおじやはごぼうの出汁がきいてて、体をほぐしてくれるみたい。

テレビを見ながら食べていると、不意に昨日の片倉さんの言葉が蘇ってくる。


『おまえは、安定した収入のある男と結婚して幸せになれ』


“幸せになれ”って、そんなに簡単じゃないよ。


そもそも、どんな状態を幸せっていうのか私には分からない。

今までで幸せだと感じたのはおばあちゃんといた間だけ。
だけどそれはもう二度と戻らないじゃない。

ブンブンと頭を振って振り払おうとするけれど、言葉はいつまでも私の周りをつきまとう。

『生きろよ』より難しい命題をつきつけられて、それでもそれを無視できない。

片倉さんの言葉はなんでこんなに私を縛り付けるの。


幸せになれって言うなら、なり方を教えてよ。


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