〜愛が届かない〜

最後の日


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愛してるの

その長い指も

ゴツゴツした大きな手も

一重の瞳も

甘い香りも

意地悪な唇も

低い声で『楓』と呼ぶその声も

「どうした⁈」

「ううん…車の中、溝口さんのタバコの匂いで充満してるから…溝口さんの車だ〜って感動してたの」

「変な奴だなぁ」

「だって‥初めて乗せてもらったんだもん」

最初で最後だから…何もかも覚えていたいの。

「そうだったな⁈」

「そうだよ。知り合って1年近く経つのに初めてだよ」

「もう、そんなに経ったか?」

やっぱり‥あなたにとって私とのことなんて些細なことなんだ。

偶然だけど…今日、出会って1年経ったよ。
そして…さよならする日

「……そうみたいだね」

出会って1年

早かったような遅かったような…
甘くて
嬉しくて
楽しくて
そして…
辛くて
悲しくて
虚しくて

いろいろな感情が私を苦しめた1年。

今日でさよならするの

「お前の行きたいところに連れてってやるよ。どこ行きたい?」

「いいの?」

「楓の頼みなら遠くても運転してやる」

「じゃあ…沖縄」

「……無理だ。車で行けるとこだぞ」

「えー」

行けないのわかってて拗ねてみる。

「いつか…連れてってやるよ」

優しく髪を撫でる手。
それだけで、実現しないとわかっていてもうれしい。

「うふふ…いつかね。それなら今日は、水族館とプラネタリウムが行きたい」

「そんなとこでいいのか⁈」

「うん…」

車の中もいいけど…
誰にも邪魔されず恋人同士のように
手を繋いで触れ合いたいの…
あなたの温もりを感じていたい。

「わかった‥…女ってアウトレットとかショッピングに行きたいのかと思ってたけど…」

女ならって誰と比べているの⁈
他にも私のような女がいるの⁈
それとも本命⁈
チクンと痛む胸。

「私は、水族館が行きたいの」

「……連れてくからムキになるなよ」

ちょうど信号が赤になり車を止めると私の頭をポンポンと優しく叩くから

「…子ども扱いしないで」

「フッ…ベッドの上では大人扱いしてるだろう⁈」

不敵に笑うから、一気に頬が熱くなり‥いつものように言い返せなくて

「バカ」

と叫んだ。

「あははは‥…」

大きく笑い、信号が青に変わったため車を走らせた溝口さん。

そして…

私の手を握り

「プラネタリウムも行こうな…」

前を向いたまま優しくつぶやいた。
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